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コラム

脱臭フィルターの評価方法

脱臭フィルターの性能評価として、臭気濃度(臭気指数)、ガスクロを用いた悪臭ガスの除去性能、GC-MSを用いた悪臭ガス成分、圧力損失、比表面積などの測定を行っています。今回、それらの評価方法の一部をご紹介します。

臭気濃度低減率

フィルターの入口と出口の臭気を採取し、3点比較式臭袋法によって臭気濃度を測定し、フィルターによって低減した臭気濃度の割合を算出する評価方法です。厨房排気臭のような複合臭で臭いの種類が多岐にわたるような場合、この評価方法が適しています。

当社は調理臭の脱臭性能を測定するための試験設備を保有しており、焼肉やカレー等の様々な臭気に対する脱臭性能を測定しています。変動する臭気に対して脱臭フィルターの性能を正確に評価するには、原則、脱臭装置の入口と出口の臭気は同時に採取します。

臭気濃度低減率は以下の式で計算します。例えば、入口臭気濃度が5000、出口臭気濃度が500であれば、臭気濃度低減率は90%となります。

臭気濃度低減率(%)=100×(入口臭気濃度-出口臭気濃度)÷入口臭気濃度

臭気の採取①臭気の採取①
調理臭の脱臭試験装置(焼肉調理中)調理臭の脱臭試験装置(焼肉調理中)
臭気の採取②臭気の採取②
臭気採取したサンプリングバッグ臭気採取したサンプリングバッグ
臭気濃度の測定臭気濃度の測定

臭気濃度の測定方法については、下記リンクのコラムに詳しく書いていますのでご参照ください。

ガスクロマトグラフ

悪臭ガスの各成分の定量測定にはガスクロマトグラフを用います。ガスクロマトグラフは略してGCと表記したり、ガスクロと呼んだりします。測定したいサンプルガスをガスクロマトグラフに注入し、カラムとよばれる充填剤が詰められた配管を通過させます。その後ガスは検出器に到達してピークとして検出されますが、ガスの成分ごとにカラムを通過する速度が異なるため、検出されるまでの時間(リテンションタイム)の違いによって単体のガスとして分離することができます。

定量するためには、まず測定したいガスの標準ガス(成分濃度が正確にわかっているガス)を用意し、複数の注入量のピーク面積を測定することで検量線をあらかじめ作成しておきます。

注入したサンプルガスと標準ガスのリテンションタイムを照らし合わせることで成分は同定され、ガス濃度はピーク面積から検量線を使って求めます。

ガスクロマトグラフのしくみガスクロマトグラフのしくみ

以下のチャートは、脱臭フィルターに所定濃度の硫化水素とメチルメルカプタンを通気させ、フィルターの入口と出口をサンプリングしてガスクロに注入したときのクロマトグラムを示しています。硫化水素とメチルメルカプタンはきれいに分離され、どちらのガスも入口より出口で低減されていることが確認できます。

ガスクロマトグラム

ガスクロマトグラフ 質量分析計(GC-MS)

ガスクロマトグラフ 質量分析計は、ガスクロマトグラフ(GC)で成分を分離し、出力されたガスをイオン化して質量分析計(MS)にかけて成分を同定します。GC-MSがあれば標準ガスを用いなくても成分を同定することが可能になるため、成分が未知の試料にどんな臭い成分が含まれているか調査するのに大変便利な装置です。

以下のクロマトグラムは焼肉の臭いをGC-MSで分析したときの一例です。全部で107種類もの成分が同定されましたが、ピークが高い成分から16成分を抜粋して表に載せています。焼肉の臭いの主成分は、油が分解して発生するアルデヒド類が多くを占めていることが確認できます。

GC-MSのクロマトグラムの一例
No. R.T 成分名 面積 分子式 CAS No. 構造式
質量数
3 5:64 Acetaldehyde 11412892 C2H4O 75-07-0
29
5 7:98 Ethanol 32567049 C2H6O 64-17-5
43
13 11:78 Propanal, 2-methyl- 38599111 C4H8O 78-84-2
43
15 12:51 Acetic acid 55295698 C2H4O2 64-19-7
60
26 14:95 Butanal, 3-methyl- 24968360 C5H10O 590-86-3
71
28 15:30 Butanal, 2-methyl- 12443297 C5H10O 96-17-3
86
30 15:90 2,3-Pentanedione 20573104 C5H8O2 600-14-6
43
49 18:93 Hexanal 3909776 C6H12O 66-25-1
56
55 19:68 3-Furaldehyde 15998669 C5H4O2 498-60-2
39
66 21:28 Propanal, 3-(methylthio)- 8487748 C4H8OS 3268-49-3
48
67 21:36 Heptanal 5540212 C7H14O 111-71-7
70
77 22:68 2-Furancarboxaldehyde, 5-methyl- 26509753 C6H6O2 620-02-0
110
83 23:53 Octanal 4148026 C8H16O 124-13-0
56
91 24:63 Benzeneacetaldehyde 15274786 C8H8O 122-78-1
120
96 25:71 Nonanal 6086225 C9H18O 124-19-6
57
101 27:07 4H-Pyran-4-one, 2,3-dihydro-
3,5-dihydroxy-6-methyl-
17289011 C6H8O4 28564-83-2
144

また、GC-MSのガスクロマトグラフで分離されたガスの一部を分岐させ、分離された各成分の臭いをリアルタイムで嗅ぐことの出来る「におい嗅ぎガスクロマトグラフ(GC-O)」に接続したシステム「臭い嗅ぎGC-MS(GC-MS-O)」を用いることで、各成分の同定と官能評価を一度に行うことも可能です。

におい嗅ぎGC-MS(GC-MS-O)におい嗅ぎGC-MS(GC-MS-O)

1パス試験による脱臭性能測定

先にご紹介したガスクロマトグラフを用い、フィルターを通過する前後の悪臭ガス濃度を求めることで、1パス除去率を算出することができます。

人間の鼻は非常に鋭敏で温泉のにおい成分である硫化水素は0.00041 ppmという薄い濃度であっても検知することができます。しかし、このような低濃度の成分をリアルタイムで定量することは難しく、また低濃度であるためフィルターの脱臭性能の比較を行うためには、長時間の測定が必要になることがあります。
そこで高濃度の悪臭ガスを流し、高い負荷をかけて短時間でフィルター性能を評価する試験が1パス試験になります。所定の風量と濃度に調整したガスを、フィルターに1回通したときに何%除去できたかを測定します。1パス除去率は以下の式で計算します。

1パス除去率(%)=100×(入口臭気の濃度-出口臭気の濃度)÷入口臭気の濃度

例えば入口側から悪臭ガスを10ppm含む空気を流した後、5分後の出口側から2 ppm検出されると5分値の除去率は80%となります。そして任意の時間まで測定を行い、脱臭フィルターの性能を評価しています。

酢酸の1パス試験データの一例を示しました。

酢酸の1パス除去性能

フィルター:脱臭ハニカムフィルター
フィルターサイズ:間口12mmΦ×厚さ10mm
測定ガス:酢酸
初期濃度:10ppm
風速:0.5m/s
風量:3.4ℓ/min
空間速度:180,000hr-1

【参考】空間速度(SV)や接触時間は何を意味するのか?

空間速度の英語はSpace Velocityですが、この頭文字をとってSV(エスブイ)と一般的に呼ばれます。SVは、1時間にフィルターを通過するガスの体積が、フィルターの体積の何倍になるかを計算した値です。SVが大きいほど単位時間でフィルターが処理しなければならないガスの量が多いことになるため、負荷の大きさを比較する指標になります。
上記の酢酸の1パス除去性能の例でいくと、風量 をQ(ℓ/min)、フィルター体積をV(ℓ)とすると下記のように計算されます。

SV=60×Q÷V=1.8×105=180,000(hr-1)

また、単位時間あたりにガスがフィルターに接触する時間を接触時間といいますが、これはSVに反比例し、下記式よりSVからも計算できます。接触時間が大きいほどガスの処理能力が高いことになるため、処理能力の大きさを比較する指標になります。

接触時時間(秒)=60×60÷SV
上記のSVが180,000hr-1のときの接触時間は0.02秒になります。

ボックス試験

1パス試験は短時間で効率的に測定ができますが、デメリットとして悪臭ガスはフィルターを1度しか通過しません。そのため部屋の空気が循環しているところでフィルターを使用する場合に、より実際の使用環境と近い条件で評価してほしいという要望もいただきます。

そのような場合にはボックス試験を行います。ボックス試験とは一定の大きさの密閉容器中に「フィルター」、「悪臭ガスやにおいを発生するもの(タバコなど)」、「撹拌用ファン」を入れた後、一定時間で目的の悪臭ガスがどの程度除去できたかを測定する試験です。

密閉容器内の最初の悪臭ガス濃度を測定し、その後一定の時間ごとにサンプリングして濃度の時間変化を求めます。以下はアンモニアのボックス試験結果の一例です。

アンモニア除去絵性能

ボックス容量:100ℓ
フィルター:脱臭ハニカムフィルター
フィルターサイズ:縦108mm×横108mm×厚さ10mm
測定ガス:アンモニア
初期濃度:8ppm
風速:0.5m/s
風量:350ℓ/min
空間速度:180,000hr-1
温湿度:常温常湿

【参考】ボックス試験におけるガス濃度減衰のシミュレーション

ボックス試験と同じ空間速度(SV)における1パス除去率データがあれば、ボックス試験でどの程度の時間スケールで悪臭ガスが減衰するか、事前にシミュレーションすることができます。以下にその方法をご紹介します。

パラメーターを以下のように設定します。
ボックスの容積 V(ℓ)
ガス濃度 C(ppm)
風量 Q(ℓ/min)
経過時間t(min)
1パス除去率R(%)(初期値)

ここでボックス試験における1パス除去率は、ガス濃度と時間によらず一定値Rになると仮定します。これはガス1分子が除去される確率は変動しない一次反応であると仮定していることになります。実際は濃度や時間によって1パス除去率は変動しますが、その変動は小さいケースが多く、計算を単純化するためこのように仮定します。
ただし、ガス濃度が非常に高い、フィルターのボリュームが非常に小さい、対象ガスに対するフィルターの処理能力が低い場合は、測定中に1パス除去率が低下して本シミュレーションとの乖離が大きくなります。したがって目的や試験条件に応じて、ケースバイケースで有効性を見極める必要があります。

ごくごく短い△tの時間にガス濃度がわずかに△Cだけ変化したとすると、フィルターによって減少したガス量に関して以下の等式が成り立ちます。

V△C=-Q× R 100 ×C×△t ⇒   △C △t =- QRC 100V

ここで△t→0としてゼロに限りなく近づけると、以下の微分方程式が導かれます。

dC dt =- QRC 100V

この微分方程式を解くと、濃度C(ppm)は時間t(min)の関数として以下の指数関数で表わされます。

C=Co × exp( - QR 100V t ) ・・・・・・・・(1)

ここでCoは時間t=0のときの濃度C、すなわち初期濃度です。

例として先ほどのボックス試験の条件を当てはめると、(1)式は以下の(2)式になります。

ボックスの容積 V=100(ℓ)
初期濃度 Co=8(ppm)
風量 Q=350(ℓ/min)
1パス除去率 R=39(%)(※SV=180,000 hr-1における5分値の測定結果)

C=8e-1.365t・・・・・・・・・・(2)

このシミュレーションの減衰式(2)を実測のボックス試験のグラフに追加したものを以下に示しました。実際は1パス除去率が一定ではないこと(低濃度になるほど低下するケースが多い)、ボックス壁面への吸着や脱着の影響等もあることから、実測とシミュレーションは同じにはなりませんが、減衰の時間スケールはほぼ等しいことが分かります。脱臭フィルターによってボックス内の悪臭ガスが低減する時間スケールが、数分なのか、数十分なのか、あるいは数時間なのか、試験をする前に大まかに当たりを付けるには有効な手法です。

アンモニア除去性能

ボックス容量:100ℓ
フィルター:脱臭ハニカムフィルター
フィルターサイズ:縦108mm×横108mm×厚さ10mm
測定ガス:アンモニア
初期濃度:8ppm
風速:0.5m/s
風量:350ℓ/min
空間速度:180,000hr-1
温湿度:常温常湿

圧力損失の測定装置(差圧計)

圧力損失とは、配管に流体を流した際、流体からエネルギーが失われることで上流側と比べて下流側の圧力が低下する現象のことです。脱臭フィルターを配管の中に設置した場合、フィルターの抵抗によって圧力損失が発生します。実機の脱臭装置ではこの圧力損失を補う能力のあるファンが必要なため、この圧力損失が高いと装置設計において障害になる場合があります。当社では以下の模式図に示した装置で圧力損失を測定しています。

比表面積

物体が単位質量あたりで分子を吸着できる表面積の大きさを表したものが比表面積(m2/g)です。この値が大きいほどガスと接触する面積が大きくなるため、脱臭材が臭いを吸着する能力をあらわす目安として使うことが出来ます。比表面積は一般的に多分子層吸着理論によるBET比表面積で求められます。大きさや性質が既知である窒素分子を固体表面に吸着させ、吸着したガス分子の量を測定することで求めます。温度一定でガスの圧力(濃度)を変化させたときの吸着量の変化を示しているのが下図の吸着等温線です。圧力の増加に伴って吸着が始まり、単分子層吸着、多分子層吸着、さらに毛管凝縮へと移行していきます。

単分子層の吸着から多分子層の吸着に移行する過程で、BET理論による式を使って単分子吸着量を求めることができます。一般的に相対圧P/P0が0.05~0.35の範囲ではBET理論によって導かれた下記式がよく成立します。

1 [W(P0/P)-1] 1 VmC (C-1) VmC P P0

  • C:吸着パラメーター(定数)
  • W:ガス吸着量
  • Vm:単分子層吸着量(定数)
  • P:圧力
  • P0:飽和蒸気圧(定数)
  • P/P0:相対圧

横軸に相対圧 P P0 を、縦軸に 1 [W(P0/P)-1] をプロットすると、切片が 1 VmC 、切片が (C-1) VmC の直線(BETプロット)が得られ、切片と傾きからVmとCが求められます。

BET比表面積はVmから以下の式で計算することができます。

BET比表面積(m2/g)=Vm×N×Am÷M=4.35Vm

  • N:アボガドロ数(mol-1)= 6.02 × 1023
  • Am:窒素ガス1分子の占める面積(m2)=1.62× 10-19
  • M:気体の分子容量(m3/mol)=22.4×103

測定はまず、サンプル内部や表面に付着している水分を除去するため、真空状態で加熱処理をします。次にサンプルを液体窒素中に浸すことで低温にし、窒素ガスを供給することで粒子表面に窒素ガスが吸着します。
あるフィルターのBET比表面積がBETプロットから374.170m2/gと測定されたときのデータを以下に示しました。